鉛の弾に蝶の翅

音楽好きによる雑記ブログ

TTNGというバンド

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  TTNGは「エモ」「マスロック」と呼ばれるジャンルの中でおそらく最もテクニカルな部類に入るバンドのひとつだと思う。

 

そして個人的に思うに、彼らがすごいのは、テクニカルなだけじゃなくてとにかく「理性的」であるというところ。

 

ボーカル(兼ベース)のヘンリーが歌うメロディはとてもキレイで「美メロ」と表現されることもあるくらいだから、無感情ということでもないんだけども、それでも似たような音楽性を持つ他のエモ/マスロック/インディーロックバンドとは明らかに一線を画している。なんというか音が冷静だ。意図的に叙情性から距離を置いているような感じすらある。

あまりにも徹底的に叙情を排した音なので、「エモ」なんていうジャンル名をあてがうのが失礼な気さえしてくる。それくらい、TTNGの演奏は冷静なのだ。

 

実際のところ、彼らは自分たちで「エモ・バンド」を名乗っているわけではないし、ジャンル的な位置関係としてはアメフトとかの「ミッドウェスト・エモ」と呼ばれるバンド群からいくらか影響を受けている、程度のものだろう。

だからあまりジャンルとか括りにこだわる必要はないかな。

 


で、先にも述べたようにこのバンドの特徴はひたすら理性的、理知的であること。

特にギターのプレイはすごい。曲ごとに異なる変則チューニングを使い分け、拍子の頭がどこだかわからなくなるような幾何学フレーズを縦横無尽に敷き詰めていく。

 

音色が基本的にナチュラルなクリーントーンのみ、というのもやはり理知的な印象に拍車をかけている。モジュレーション系はおろか歪みすらほぼ使わないというのは、彼らの音楽性を考えるとすごく意味のあることで、なぜならディストーションにしろコーラスにしろ何らかのエフェクトをギターサウンドに加えるというのはつまりなにがしかの情動をそのエフェクトにより演出することになるわけで、逆にそれをできるだけ使わないということはその分だけ感情の動きが抑制される、ということになるからだ。

ディストーション、ファズ、コーラス、ディレイ……などなどあらゆるエフェクトを駆使することで生まれる音の歪み、揺れ、重なりは、もとの音色に「いびつさ」や「動き」を与えることになる。

そうした「いびつさ」「動き」は、そのまま感情の「いびつさ」「動き」につながって、音楽の中でエモーショナルに作用するのだ。

 


少し脱線したけど、とにかくTTNGはエフェクトの使用を最小限にとどめることで意図的に感情の発露を抑え込む。

そうやって「音色」から受ける印象そのものをコントロールすることにより、彼らのスマートで冷静な音世界をより強固なものにしているのだ。多分(まあ実際彼らのペダルボードとかをネットで調べてみると結構いろんなペダル使ってるし、ノンエフェクト主義というわけではないのだろう。ただ、ギターの音を派手に変化させるような飛び道具的な使い方はほぼしてないはずで、ハッタリ的なエフェクトではなくあくまで「ペンタッチを変える」ような自然な音色の使い分けが目的でエフェクター を使っていると思う)。

 


ただ、そんなTTNGだけど、理知的サウンド一辺倒かというとそうでもない。

アルバム『Animals』収録の「Elk」なんかは切なげな音色のトランペットをフィーチャーしていて郷愁を誘うような雰囲気があるし、YouTubeのTaylor社公式チャンネルで観ることができる「26 is Dancier Than 4」のアコースティックバージョンはある種のフォーキーささえ漂っていてとても叙情的だ。

普段はクレバーで幾何学な音楽性を志向するバンドが、たまに見せる叙情性あふれる一面。

さながら「めちゃめちゃ厳しい人たちがふいに見せた優しさ」とでもいうべき、微笑みの爆弾的破壊力があると思う。

 


TTNGの特徴というか魅力は他にもあって、例えばヘンリーが使ってる楽器が普通のベースではなくてスクワイアのジャガーベースを改造したベースVI風バリトンギターであることとか、

こんなにも無感情でマスマティックな音楽が打ち込みとかではなく、紛れもなく体温を持った人の手によって奏でられていて、バンド音楽の身体性をまさしく体現しているという矛盾を孕んだ美しさとか、色々あるんだけども、もう疲れてきたので細かく書くのはやめとく。

今回は以上です。